今月の法話 2024年6月

私の闇を照らし出す仏の光

獄舎にピーンと張り詰める強制された静けさ
抑えきれない罪の呻きが救われぬまま渦まき
罪人は、もがけばもがくほど罪の海に沈んでいく
誰もが生まれた時は祝福されていたであろうに
巡り合わせと選択の中で罪を犯していく
人間の弱さと愚かさがせつなくてたまらない
罪人の一人一人の悲しげな目はみんな同じです

夕影が空と大地を西方淨土に染めはじめると
獄中のすきまからもれなく光が差し込み
差別なく花も机も我が身も照らし出す
あぁ、どれほど罪の闇の中で彷徨い続けようと
はてなき光はきっといつも届けられている
救いなき姿のままでこそ摂取する無限の光よ
償いようのない罪を償う道を照らして下さい

 1990年代にさまざまな犯罪で世の中を震撼させたオウム真理教。ハルマゲドン(人類最終戦争)は回避できないと、若者達の不安をあおり、自分達だけの勝手な理屈を創り上げ、妄信的・狂信的な教団運営を続けた麻原彰晃のもと、オウム真理教は暴走を続けましたが、その中心人物の一人が井上嘉浩でした。(6年前に死刑執行)
 松本サリン事件・地下鉄サリン事件・坂本弁護士一家殺人事件、数々のリンチ殺人事件等、彼はオウム真理教の中核的存在として、さまざまな犯罪に手を染めていきました。1995年に逮捕され、2018年に死刑執行されるまでの23年間を獄中で過ごしました。
 彼は真宗大谷派(東本願寺)の僧侶達との交流を通して親鸞聖人の教えに出遇っていき、その過程で書いた詩が冒頭の詩です。獄中の中で自らの罪責と向き合い、文字通り“のたうち回って苦しみ”ます。何の罪のない人々…、自分が手を下さなかったならば一人ひとりが幸福な人生を送っていただろうに。その犠牲者達の幸せだけではなく、その人に連なる家族や多くの人々の幸せをも奪ってしまった。取り返しのつかない事をしてしまった、という悔恨の想いに苛(さいな)まれながら苦しみ続けました。まさに暗中模索の獄中の中で自分の闇と罪と向き合い、見出した一筋の光明、それが西方浄土よりの阿弥陀如来の光だったのではないでしょうか。
 「弥陀の五劫思惟の願をよくよく案ずれば、ひとえに親鸞一人がためなりけり。されば、そくばくの業をもちける身にてありけるを、たすけんとおぼしめしたちける本願のかたじけなさよ」と、阿弥陀如来を仰ぎ続けた親鸞聖人の生き方に遠く及ぶべくもありませんが、私もまた、自らの闇と向き合う事を通して「仏の光」に照らされる人生を歩む事は出来るのでしょうか。

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