今月の法話 2022年10月

私を動かすのは 欲と競争ではなく 融和と温もり

「観無量寿経」という経典に「汝是凡夫心想羸劣」というお釈迦さまのお言葉が出てきます。韋提希(いだいけ)夫人に対して「貴女も心の弱い凡夫ですね」と語られたお言葉です。凡夫とは煩悩があるがゆえに、世の中の有り様を正しく見る智慧の眼(まなこ)を持たない人間を言います。私達人間は欲望という煩悩に支配されているために、欲しい物をどれだけ手にしても満足することは中々できないのです。
 ある男性が、地獄と極楽に見学に行くと、地獄に落ちた者達が食卓で豪華な料理を囲んでいました。しかし、その者たちが持っていたのは三尺三寸(約1メートル)以上もある長い箸でした。どうにか自分の口に運ぼうとしますが、中々入りません。するとつまんだ料理をお互いに奪おうとして醜い争いが始まりました。自分さえよければいい、という存在を我利我利亡者というのです。
 次に男性は極楽に行くと、人々は同じようには豪華な料理を囲んでいました。しかし皆穏やかに食卓を囲んでいるのです。極楽の人は長い箸でご馳走をはさむと「どうぞ」と言って、自分の向こう側の人に食べさせていました。向こう側の相手も同じようにお返しをしました。それで皆料理を仲良く食べているのです。自分さえよければという生き方では、幸せにならないということをこの物語は私達に教えてくれています。今、我々が生きているこの娑婆世界こそこの物語でいう、地獄なのであるという事を。
 私達は幸福になろうとして一生懸命生きています。そして幸福になる道は経済的に豊かになり、科学文明を発達させることであると疑わずに生きてきました。しかしその際限のない経済活動や過剰な自然破壊によって地球の温暖化がもたらされ、異常気象が頻発し極端な豪雨や日照りによって世界各地で甚大な被害が報告されています。また、この2年半以上も世界を混乱させている新型コロナウィルスも環境破壊がその原因とされています。
 果てなく経済発展を求めた人類はその見返りに異常気象やパンデミックに恐れおののくという代償を手にしてしまいました。欲と経済競争による幸福を求めるのはもうやめにして、他の人や一切の環境(自然)と共に生きていく仕合わせ(お互いに仕え合う)を求める中に、私達の生きるべき道が見えてくる仏教の智慧の眼(まなこ)を拠りどころとした生き方が求められています。

印刷用PDFファイルはこちら
PDFファイルをご覧いただくには、Adobe Reader(無料)が必要です。ダウンロード

法話バックナンバー