水はつかめません すくうのです 心もつかめません くみとるのです
人は愛する人を死別で失うと、大きな悲しみである「悲嘆(GRIEF)」を感じ、長期に渡って特別な精神の状態の変化を経ていきます。遺族が体験し、乗り越えなければならないこの悲嘆のプロセスを、「グリーフワーク」と言います。
この悲嘆の状態は、心が大怪我をしたような状態ですが、自然に治癒の方向に向かいます。遺族はやがて、故人のいない環境に適応して、新しい心理的・人間的・社会経済的関係を作っていきます。この「グリーフワーク」のプロセスを支えて見守ることが「グリーフケア」です。
死別で起きる主な悲嘆の反応には(1)怒り(私がどうしてこんなつらい目にあうのか)(2)事実の否認(3)後悔や自責の念(4)不眠や食欲不振といった体の不調などがあげられます。もちろん誰が何歳でどうして亡くなった、等の違いによって残された人達の感情も千差万別ではあります。
アルフォンス・デーケン氏によるとグリーフワークに12の段階があるとされています。紙面の関係上、全ては書けませんが主なものをご紹介します。
- 精神的打撃と麻痺状態
- 頭の中が真っ白になる。心身のショックを少しでも和らげようとする本能的な働き(防衛機制)である。「お葬式など、あまり覚えていませんし、夢中の出来事のようです。泣くこともできず、周りからしっかりしているとか、泣かないことを非難されたりします。」
- 否認
- 自身の感情が受け入れられないだけでなく、理性も大切な人の死という事実が認められない。帰ってくるような気がしたり、亡き人の声を聞いたりする。「あの人が死ぬわけがない」 と思うことがある。
- 怒りと不当惑
- 自分が不当な苦しみを負わされたという激しい怒りが沸き起こり、何で私だけがこういう目にあわないといけないのだろうかという不当感が発生することもある。神仏は何故私にこんなにひどい運命を課したのか。私は何も悪いことをしていないのに何故こんなひどい目にあうのかという不当感です。
とりわけ突然死の時に強い場合が多い。無理に感情を押し殺さず上手に発散していく事が大事。 - 罪意識
- 「自分が生き残った」という自責感で、多くの遺族を苦しめる。
- 孤独感と抑うつ
- 葬儀などの慌ただしさが一段落すると、まぎらわしようのない独りぼっちの寂しさがひしひしと迫ってくる。
- 諦めと受容
- 受容とは事実を事実として受け入れていこうとする行為のことである。愛する人はもうこの世にはいないという辛い事実を自ら受け入れることができるようになる。
- 新しい希望
- 忘れていた微笑みがもどり、新しい自分へと成長していく。
- 立ち直りの段階
- 人間成長を伴った新しい人格の誕生。
これらの順番や程度の寡多はともかくとしても、いくつかは思い当たる方がおられるのではないでしょうか。
グリーフケアにスタッフとして関わって長くなりますが、参加者(不特定多数)はじっと相手の言葉に耳を傾け合い、頷きあいながらやがて心の底に溜まった自分の思いを吐露し始めます。お互いに相手の心をくみ取りながらグリーフケアは進んでいきます。絶望の淵に佇んでいた多くの人達が立ち直っていくのをみてきました。
死別体験をされた方に「頑張ってね」と声をかけるのではなく、相手の心の声に耳を傾けながら悲しい心をくみ取ってはいかがでしょうか。
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