今月の法話 2024年8月

会いたい気持ち 溢れ出した言葉 南無阿弥陀仏

晴れ渡る日も 雨の日も
浮かぶあの笑顔
想い出遠くあせても
おもかげ探して
よみがえる日は 涙そうそう

 夏川りみさんの歌唱で多くの人の心を揺さぶったこの歌は、森山良子さんの詩による作品です。彼女が若い頃、兄が二三歳の若さで急死しました。その兄を想いながら作ったのがこの詩です。曲名の「涙そうそう」は涙がポロポロ、という意味だそうです。
「愛する人を失った悲しみっていうのは……、例えば、戦争でご家族を失った悲しみとかは、いつか忘れるだろうと思ってたんです。でも、人の悲しみというものは延々と続くっていうことを、思い知ることができました。悲しみって絶対に忘れないんだっていうことを。しかし三〇年近くが経ち、詞を書いて歌ううちに引きずってきた色々な思いは少し整理されていったと言います。『なんで死んじゃった、なんで死ぬのがあなただったんだろう』っていう思いがずっとあった。でも、悲しみが歌詞とともに浄化されていくような感覚を味わいました。体の中にずっと抱えた悲しみを外に話すことができたんです。本当に神様がくれた出会いだと思います」。こう森山さんは語って、歌い続けることで悲しみが整理され、浄化されていったとも語っています。
 自分の抱えている不安や不満、イライラや悲しみなどネガティブな感情を口に出すと苦痛が緩和され、安心感を得られる現象の事を心理学用語でカタルシス効果と言うそうです。森山さんは詩にメロディを付けて歌として表出することを通してカタルシス効果を得ることが出来たのではないでしょうか。
 仏教ではお弔いとして人が亡くなると様々な仏事があります。その折に僧侶に読経をお任せするのではなく、一緒にお勤めしてまいりましょう。大きな声で読経し、ナマンダブ
ナマンダブ」お念仏を称えるのです。私達の先達はそうして知らず知らずのうちにカタルシス効果を得ていたのです。
 人生に別れはつきものです。長く生きれば生きるほど多くの方と別れていく苦しみを経験しなければなりません。そのことをお釈迦さまは愛別離苦(愛する人と別れていかなければならない苦しみ)という言葉で言い表されました。確かに私達は亡き人への愛が深ければ深いほど、失った人を思う気持ちは辛いものがあります。そんな時、「ナマンダブ ナマンダブ」と称えてみませんか。
 亡き人がこの世に生があるときはその方の名前を呼んだことでしょう。お浄土へ往かれた人は「ナモアミダブツ」の仏さまになられました。だから今度は名前の代わりに呼ぶ声が「ナモアミダブツ」なのです。あなたが呼ぶ声とあなたを「幸福になってね」と願い続ける今は亡き仏さまとなった方が一つになっていく世界がそこにある事でしょう。
「ナモアミダブツ、ナモアミダブツ…。」

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